推進用滑材アルティKの解説

はじめに

市街地における上下水道、電力、ガス、通信等のライフラインの敷設には、推進工法が工事公害等の少ない経済的な工法として採用されている。
ライフラインの敷設は環境等の諸間題を考慮した場合には、曲線を含む長距離推進の需要が多くなってくる。
この需要に応えるために、各種の推進技術が開発され、長距離・急曲線の推進施工が可能となってきている。
しかし、推進工法では、推進管外周と地山との間に発生する抵抗力は、推進距離とともに増大していくため、推進管の耐荷力より大きな推進力が発生する時がある。
そのため管端面の破損防止をするのに中押装置を数ヶ所に配置したりする対策がとられている。
中押装置の採用は、推進力の分散には有効であるが、推進達度や作業効率の低下を招くという間題がある。
このため、当社では、長距離・急曲線推進工法の推進力低減の研究開発に取組み、全土質に対応可能な一液タイプの推進用滑材の開発を行った。
以下に、本滑材の性能および推進現場における実証実験について報告する。

標準配合液(200リットル)の性質

アルティKの配合液の性質は次のとおりである

混合割合アルティK1.2kg
清水 199リットル
比重乳白色液体
混合割合 20℃1.00
粘度(cps/20℃)
10分後
24時間後

1.500cps
1.501cps

特長(滑材開発のねらい)

  1. 全土質で管周面抵抗の低減効果が大きい
    管と土とのせん断抵抗値を著しく低減できる。
  2. 水溶性が小さい
    水のあるところでも溶出せずテールボイドに残る。
  3. 保水性が大きい
    水のないところでも滑材内の水分が逃げず、本来の性能を発揮する。
  4. 高粘性で経時変化が少ない
    長距離の場合でも周面地山保持などの性能を長期間維持できる。
  5. 耐塩性が大きい
    水溶性と相まって塩分のある土質でも性能を相当程度維持することができる。
  6. 取り扱いやすい
    200リットル当たり1.2kgで、運搬しやすく、撹拌時間も短くて済む。

現場実証実験と考察について

アルティKの性能評価を行うために、数現場において、実証実験を行った。
以下にその内容を報告する。

実証実験工事-1

工事概要
管径φ3000mm
推進延長255.1m
土破り11m~16m
土質シルト、砂礫混じりシルト、埋め土
最大礫径20mm
地下水位-3m
拡幅幅10mm
計画
計画推進力1367tf(アルティミット工法)
滑材注入量56.63m3
結果
実最大推進力1700tf(中押し1000tf+元押し700tf)
(マシン押出し時)
実注入量66m3
推進日数39日
推進力について(実証実験工事-1、推進力経過図参照)

滑材の注入開始は、40m付近より他の滑材で注入が行われた。
無注入ゾーンでのτaの値は高い数値を示しており、最大680kgf/m2であった。(τa:管と土のせん断力/外周面積)
80m付近からは、アルティKと他の滑材の交互注入で行われ、110m付近からアルティK単独で注入が開始された。
τaの顕著な減少傾向が見られるのは、110m付近からで滑材の変更地点(80m)より30m後の位置である。
それから170m付近までは徐々に減少している。
110mまでの平均のτaは442kgf/m2で、以後の平均τaは268kg/m2で60%程度となっている。
ただし、170mからのτaは、少しずつ大きくなっていく傾向にある。
また、210mからτaの増加が顕著になっている。
掘進機到達後、約1週間停止してからの推進力は、中押しで1000t、元押しで700t、合計1700tで掘進機を到達立坑に押し出した。
中押し設置個所は、先頭より85mの位置で、掘進機から中押しまでのτaは、約890kgf/m2と推定できる。(B線)

考察

推進力の増大に影響する要素は、管と土とのせん断力(τa)であるが、このせん断力を下げるためには、滑材の適切な注入と有効な滑材の採用が必要である。
アルティKを使用した結果、従来の滑材と比べ、優れていることが判断できた。
140m付近から礫混じりの土質となり、τaが漸増しているが、140m付近の実推進力の増大は、掘進機部分の抵抗と考えられるので、τaの計算上の増大は無視して良いと考えられる。
170m付近からの推進力の増大は、試験的に行ったアルティKの配合比を、標準、2倍、3倍配合に変えたことに起因するものと考えられる。
これは実験室で行った標準、2倍、3倍配合の性能比較と合致している(性状試験結果報告書参照)。
アルティKの希釈による性能への影響は大きく、上記報告書のデータからも、2倍、3倍希釈水溶液は極端に滑材効果が低くなっている。

実証実験工事-2

工事概要
管径φ2200mm
推進延長309m
土破り-7m ~ 8m
土質砂、シルト
地下水位-2m
拡幅幅22mm
透水係数5.3×10-3
計画
計画推進力1353t(アルティミット工法)
滑材注入量51.1m3
結果
実最大推進力1072t
実注入量54.8m3
推進力について(実証実験工事-2、推進力経過図参照)

滑材の注入開始は、約75m付近より他の滑材で行われ、165m付近からアルティKの単独注入に変更された。
推進力経過図からも明らかなように、他の滑材では推進力の低減は小さく、アルティKの注入ゾーンでは低減率が非常に大きくなっている。

他の滑材Y切片67.8
Y評価値の標準偏差48.3
R2乗0.8
標本数7
自由度7
X係数2.5
X係数の標準誤差0.1
アルティKY切片48.9
Y評価値の標準偏差75.2
R2乗0.3
標本数5
自由度5
X係数1.2
X係数の標準誤差0.2
表-1 回帰分析結果表

他の滑材とアルティKの2種の滑材注入時の推進力の回帰分析は、表-1のとおりで、X係数(増加率)を比較してみると、アルティKのほうが2倍近く低減効果があるものと考えられる。
また、当初からアルティKを使用していれば、推進力(F)は460tf程度まで抑えられたのではないかと推定される。

Fo=67t、X=1.25

推進延長 L=309m

F=1.25×309+67≒460tf

全体的に推進力の変化を見ると、休日明けの縁切り推進力は、大きな値を示している。
180m付近の推進力の増加は、160m~180mの区間で、アルティKがテールボイド空間の16%程度しか注入されておらず、アルティKの性質による影響とは考えにくい。
掘進機押し出し時は、到達後3日日で、元押しのみで1072tfであった。前回報告時(1999.2.1)での状況は以下の通りだった。

考察

実証実験工事-1に比べ、同じ砂質土、シルト系土質条件であるが、本工事のほうが滑材の効果は大きかったと判断できる。
これは、アルティKの配合を標準配合で注入したことによるものと考えられる。
延長260m付近で管と土のせん断力τaが最小になり、170kgf/m2と良好な数字となったが、それ以降は、徐々に上がっている。
その原因は、土質の変化による掘進機部の抵抗力の増大と考えられるが、滑材の地山への逸散なども考慮する必要がある。

まとめ

実証実験工事-1及び実証実験工事-2ともに砂質土、シルト系土質で、且つ推進途中からの滑材注入であったが、多少の条件相違はあるが、それぞれに効果があることが実証できた。
実証実験工事-3、軟岩から地下水のない埋め土に土質が変化し、推進力が急激に増大した工事現場において、アルティKが採用された。
その結果、滑材の注入によって管と土とのせん断力が低下し、著しい推進力低減の効果が認められた。
このことから、無水層の土質に対しても、本滑材が有効に働くことが確認できた。
実証実験工事-4、関東ローム層の工事現場においてもアルティKを採用した。
この工事では、アルティKを計画的に注入した。
そこで得られた結果は下記のとおりである。

  • τaが、極端に小さくなること。 (τa=33~43kgf/m2)
  • 300m付近から関東ローム層から粘土層に変化し、且つ、それによって日進量が遅れても 推進力の低減効果は維持していたことより、粘性土層でも低減効果があり、経時変化による影響も小さいと考えられる。
  • 休日明けでも縁切り推進力と動推進力の差が小さく、前記考察で懸念されたアルティK のもつ高粘性やチキソトロピー性が、推進力を増大させる原因でないことを実証できた。 縁切り推進力と動推進力の差は、管と周面地山との接触面で生じるものと考えられる。

あとがき

以上の実証実験結果やその他の工事現場においても注入管理を充分行えば、推進力を著しく低減できることが確認でき、長距離・急曲線推進施工に有効な滑材であると確信した。
多くの長距離・曲線推進工事が効率良く施工にできるように、アルティKを社外でも使用していただけるようにしている。
また、滑材の適切な注入管理を行うために、当社で開発したテールボイド測定器を用いて、管外周の滑材充填状況調査、検討を行う。
そして、土質や現場条件等を考慮した滑材の注入量管理、システムの確立に努め、推進力の低減という永遠の命題に取り組んでいきたいと考えています。

以上

実証実検延長(m)土質地下水効果平均τa(kgf/m2)
13092200シルト当初は他滑材を使用していたが、推力上昇。
アルティK使用後120m元押し推力横這い。以後緩やかに上昇し完了。
300から200に低下
22553000シルト当初は他滑材使用していたが、推力上昇。
アルティK使用後100m元押し推力横這い。
以後徐々に上昇し完了。
450から250に低下
32182400砂、埋土刃口推進で当初は泥しょう材を注入していたが、推力急上昇し停止。
推進設備入れ替え、アルティKを注入して推進後80mは元押し推力横這い。
休日を取りながら昼間施工のみで完了。
3週間後裏込め時にも滑材が残存していた。
1400から900に低下
45601200ローム、粘性士最初からアルティKのみを、計画的に充分注入して推進。
延長560mで総推力116トンで完了。
40
53881000砂質シルトアルティKを計画的に充分注入して推進完了。
延長388mで100トン。最大縁切り260トン。動推力150トン。
80(縁切り160)
63361500砂礫混シルト当初他滑材使用、160mからアルティK使用し推進中。
延長336m、直前で縁切り推力350トンで完了。
240から150に低下
7187 900砂礫、シルト、腐植土砂礫とシルトの互層で、最初からアルティKのみを注入して160mまで200トン。
4日間停止後290トン。最終293トンで完了。
280(MAX390)
84581000中砂、細砂当初は他滑材使用していたが、推力上昇傾向でアルティK使用。
滑材変更地点200mで138トン(縁切り193トン)380mで145トン(擦切り200トン)。
458mを縁切り400トンで完了。
170から100に低下
(縁切り240から140に低下)
最終縁切り10)
94601000中砂、細砂最初からアルティKを使用。
375m地点で総推力120トン。
60
現場実証実験結果一覧表
浸透性試験濾水試験器に60メッシュの金網を敷きφ2mm鉛玉を高さ5cmに敷き詰め、その上に試料を300cc加え、3kgf/cm2で加圧し漏れ出した量を測定する。
保水性試験試料400ccを3kgf/cm2で30分間加圧し、濾水量を測定する。
塩分の影響試料400ccに海水を200cc加え、様子を観察する。
摩擦抵抗試験回転式摩擦係数測定器により、摩擦係数を測定する。
アルティK性状試験結果報告書 (試験項目及び方法)
実証実験工事-1推進力経過図 (φ3000推進延長255.1m)
12345
試料の種類アルティK15kg/200 月作液直後アルティK15kg/200リットル 作液1ヶ月後アルティK15kg/200リットル

フリーウッド1kg/200リットル
アルティK15kg/400リットル
(2倍希釈)
アルティK15kg/600リットル
(3倍希釈)
浸透性試験(ml)164168102173182
濾量(ml)16.517.215.025.058.0
塩分の影響直後は界面がはっきりしているが徐々に分散する直後は界面がはっきりしているが徐々に分散する直後は界面がはっきりしているが徐々に分散する直後より分散している直後より分散している
摩擦係数0.120.120.120.30.31
土質 シルト 埋め土 (試験結果)
※摩擦抵抗試験:土質は砂(ブランクの摩擦係数0.63)
実証実験工事-2推進力経過図
土質   砂礫   砂混シルト   シルト   砂混シルト