アルティミット工法 液圧差レベル計測システムについて
アルティミット工法のシステムの一つに「液圧式レベル計測装置」があります。
同装置は、長距離推進における測量作業量の低減を目的に製作され、現在も東京、大阪などの現場で導入されています。
今回は、この「液圧式レベル計測装置」の事を少しでもみなさんに理解していただこうと思い、現場での導入結果も併せて報告します。
はじめに
みなさんが身に付けている腕時計は防水タイプでしょうか。防水タイプといってもいろいろあります。
洗い物程度なら壊れない生活防水タイプから、お風呂に入っても大丈夫な物、さらには、20m以上潜っても大丈夫な物まで様々です。
では、生活防水タイプの腕時計で水深20mまで潜ったらどうなるでしょうか。
恐らくそのダイバーは、自分の潜水時間を知ることが出来なくなってしまうでしょう。
腕時計は、それぞれが水圧に耐える限界を持っています。生活防水の腕時計が壊れたのは、20mという探さの水圧に耐えられなかったからです。
このことから、液体の圧力はその深さが深くなるほど大きくなり、浅くなるほど小さくなることがわかります。
そして、その圧力と深さが比例関係にあることは、静水力学の基礎となっています。
「液圧式レベル測定装置」は、このことを利用し、掘進機のレベル変化を水圧の変化で読みとる仕組みになっています。
測定方法
本装置は、掘進機に圧力センサを取付け、レベルの変化を読みとり算出しています。
圧力の測定は、液体を入れるタンクと掘進機に取り付けた圧力センサのみで行えますが、液面の変化を読みとるため発進立坑に基準圧力センサを固定し、各センサの水頭差からレベルを測定します(図-1)。
センサの読みとった値は、パソコンで処理され、現在のマシンの高さがモニタに表示されます。
液体は基本的に水道水を使用しますが、冬場など確結の恐れのある場合のみに不凍液を使用します。
システム構成
当装置の各部名林と特徴について説明します(図-2)。
基準タンク | 発進立坑側に設置され、各圧力センサに液圧力をかけます。 |
基準センサ(PS-1) | 発進立坑内に設置され、測定の基準となる値(基準タンク内の液面の変化)を読みとります。 |
変動センサ(PS-2) | 掘進機に設置され、現在の掘進高を読みとります。 |
液圧ホース | 基準タンク、基準センサ、及び変動センサを1つの管路で結び、各センサに液圧力を伝えます。 |
エア抜きバルブ | 液圧ホース内に混入した空気を抜き取るためのバルブです。 これを行うか、行わないかで測定精度に大きな誤差を生じさせます。 |
エアダンパ | 油圧ホースとの接触などによる液圧ホース内の振動を吸収し、圧力センサに極力静圧を与えるようにします。 |
インタフェースボックス | 各センサの読みとった電流値を、パソコンに通信させます。 |
各センサ通信ボックス | センサの読みとった電流値はアナログ信号で、長距離の通信には不向きなのでデジタル信号に変換し、インタフェースボックスまで通信させます。 |
通信ケーブル | インタフェースボックスと各センサ通信ボックスを結びます。 |
パソコン | プログラムがN88BASICの仕様のためNECのPC-98シリーズを使用します。 |
RS-232C拡張ボード及びケーブル |
実験
本装置を現場に導入するにあたり何度か実験を行いました。
基確実験
同じ種類の自動車でも1台1台に微妙な違いがあるように、同じ種類(耐圧)のセンサにも微妙な違い(特性)があります。
その微妙な違いが実際の測定に大きな影響をおよぼしますが、補正をすることで、各センサの条件を似たようなものにし、精度を向上させることができます。
現在、14本のセンサを所有していますが、すべての特性を測定しました。
現場実験
実際に現場で使用するにあたり、問題点を見つけ解決するために、数ヶ所の現場で実験を行いました。
その結果、
- エア抜きの方法
- 配管材
- 管理プログラム
- エアダンパの採用
などの変更を行い、初期段階に比べ大幅な精度の向上に成功しました。
現場導入
今回、兵庫県西宮市内において長距離・曲線推進が計画され、縦断曲線推進も含まれていたことから、本装置が導入されました。
以下に、本工事の概要と導入結果について報告します。
現場概要
工事名 | 建石地区管路新設工事(その1) | |
施工場所 | 西宮市浜町9~前浜町13 | |
推進工期 | 9月10日~12月15日 | |
発注者 | 関西電力(株)神戸支店 | |
施工事務所 | 関西支店 | |
工事内容 | φ1,800mm×577.984m | |
泥水加圧式推進工法 | ||
曲線部(図-3参照) | ||
平面 | 3ヶ所 | |
縦断 | 5ヶ所 | |
土被り | 8~16m | |
土質条件 | 砂→礫→砂 |
導入結果
図-4、図-5に示したように、測定結果としては良いデータが得られたと思います。
特に、
- 測量回数の減少
1スパンあたり 2.6本/回
No.50~(初期設定終了から)3.6本/回 - 測定値の精度確保
測定誤差10mm以内の割合が全体の76%といった結果を得たことは、長距離推進におけるレベル測量作業の削減に成功したといえます。
また測定誤差が±15mm以上のものに関しては、晴れた日の昼間の推進時に偏って測定されていることから、太陽光線によるセンサの温度、水温の変化が原因ではないかと考えられます。
現場担当者から
今回の導入に当たり、現場担当者からレポート「-液圧式レベル計測装置を使用して-」を提出していただきましたので報告させていただきます。
液圧式レベル計測装置を使用するのは、今回が2回目です。
前回は、2年前の関西電力発注の芹川工事(φ1200m泥水式急曲線推進)で使用しましたが、 同装置は開発途上であり、水ホースの材質、エア抜さ、センサ精度等の問題により、 光学測量との誤差(10~20cm)が大きく、この現場では途中で使用を中止し、光学測量のみで推進施工しました。
今回建石工事で使用するに当たっては、事前情報(大阪 岸辺工事で実験導入)により色々な改良が施されて、前回と違い格段と精度が向上したと現場担当者から聞いていましたが、使用開始するまでは半信半疑でした。
特に当現場では垂直曲線が5箇所あり、最大高低差が8.4m、L≒580mといった長距離曲線推進のため、測量回数を極力少なくすることで、日進量を上げ工期を短縮し、推力の増加を防止しなければなりません。
そのために、液圧式レベル計測装置(ジャイロナビも含む)の精度が大きなウェイトを占めます。
いざ同装置を使用してみますと、前回の現場とは異なり光学測量との誤差は数ミリ(最大約15mm)程度しかなく、精度自体は問題ないと思われ、レベル計自体はほぼ完成の域にあると思われます。
時々20mmを超える誤差が生じましたが、ホース内のエア及び基準タンクの水位低下などが原因で、それらを解消すると誤差は数ミリ程度になりました。
改良点があるとしたら、基準タンクと管内との温度差が大きいと誤差が数ミリ生じるため、温度によって体積が増減しない液体の開発、または基準タンク内に水温センサを設置して、夏の暑い時や冬の寒冷地でも使用できる冷暖房装置が必要と思われます。
もう一つは、関西電力電鞘管の推進工事は水平、垂直曲線の3次元曲線推進が最近多く設計されるため、液圧式レベル計測装置とジャイロナビを組み合わせた3次元曲線ソフトの開発を行い、一つのパソコンでリアルタイムに掘進機位置の把握を行えば、より良い推進精度の向上、測量回数及び監督者(測量者)人員の削減を計っていけると思います。
最後に液圧式レベル計測装置をユニット化し社内だけの使用ではなく、機動建設工業(株)、協力業者、 他推進業者等にレンタルリースまたは販売して、全国に液圧式レベル測定装置(ジャイロナビ併用型も含む)を広めたら良いと思います。
以上
考察・まとめ
今回、導入した建石工事が当装置導入の6現場目で、これまでの実験結果から、初めて現場に開発部職員を常駐させないで測定を行いました。
マニュアルが完成していなかったこともあり、エア抜きの徹底、パソコンの管理、基準水位の確認等のポイントを指導しただけでしたが、施工に携わった方々の管理が良く、想像以上の成果を挙げることができました。
しかしながら幾つかの課題も残しました。
- エア抜きの簡略化
- エアダンパの設置方法の説明
- 基準タンク、基準センサを立坑上に設置した場合の太陽熱による測定誤差への対策
- ジャイロナビゲーションシステムとの管理ソフトの統一
などが挙げられます。
これらの件に関しては現在も考案中ですが、解決されれば現在よりもなお良い装置として機能していくことと思います。
あとがき
今回の報告の中で紹介した建石工事は、昨年末に推進を無事終了しており、この文章が発表される頃には、さらに6現場ほどで導入されていることと思います。
前述した通りまだ改善すべき点が残っていますので、何か良い提案がありましたら、質問等でも構いませんので、推進工事部、技術開発部へご連絡下さい。
尚、当社液圧式レベル計測システムに関する技術は、特許・実用新案が出願され、保護されています。