高水圧における水中到達施工
まえがき
当工事は、西部ガスが進める都市ガスから液化天然ガスへの転換事業の一環として、福岡から久留米迄のパイプラインφ400Aを布設する工事の中で佐賀県と福岡県の県境を流れる、九州でも最大の筑後川を横断するための推進工事です。
概要
件名 | 福南幹線(16-2工区)筑後川横断推進工事 |
場所 | 発進側:佐賀県三養基郡北茂安町地先 到達側:福岡県久留米市大石町地先 |
工法 | 長距離泥水式推進工法(アルティミット工法) |
管径・管種 | φ1200mm推進用ヒューム管 (E型 2種 50N/mm2) |
推進延長 | L=497.5m |
土被 | d=19m |
工法の選定
土質概要
発進立坑側及び到達立坑側のボーリング調査による土質柱状図から、推進管路部の土質は凝灰質砂岩であり、火山灰質土に凝灰岩質の礫が混入している状態で礫径は最大50mm程度と考えられ、礫率40%、残りが砂質シルトとなっています。
地下水位はGL-3.2mであり、推進管路部の水圧は0.14MPa~0.19MPa程度と考えられます。
掘進機の選定
機種選定の要素として、下記条件をクリアできることをあげ、これを満たす機種のアルティミット礫泥水タイプを採用することとしました。
- 推進延長が500m以上施工可能であること
- 前記土質条件、特に高水圧下での施工が可能であること
- 経済性に優れていること
- 河川下横断にあたり、補助工法を必要としないこと
高水圧への対処
ヒューム管の止水
シングルパッキンの規格は0.1MPaの水圧を3分間かけた状態で漏水が無ければ合格であり、それ以上の水圧に対しては保証できないということで、Wジョイント管への変更検討を行いましたが、諸般の事情により、管種の変更はできませんでした。
当現場における水圧は、最低でも0.14MPaはあると予想され漏水の可能性が考えられましたので、下図の位置に発泡性の樹脂シール剤を塗布することにより対応することとしました。
管のバッキングの処置
水圧の高い現場において、いつも考えなければならないのがバッキングの問題です。
当現場は立坑土留めがSMW(Soil Mixing Wall)であったため発進坑口を設置するときに、SMWの芯材であるH銅(300×600)にPC鋼棒取付用のH鋼をボルト(φ48mm)留めするとともに溶接を行い、坑口のコンクリートの中に埋めこんでおきました。
推進時は、このH鋼にPC鋼棒(φ23mm)を管の両サイドに1本づつ取付け、これにより管を引っ張りバッキングの防止を行いました。
到達時の鏡切り
到達立坑の深さはH=26.0mで水圧も0.14MPa以上かかっていると考えられました。
立坑の土留めは発進同様SMWで、鏡部には芯材なしのSMWが2列打設してあり強度的には充分に土庄に耐えうるものでした。
したがって、土留め部の芯材撤去のためにSMWを斫っても地山の崩壊は引き起こさないと考えられましたが、掘進機がSMWを切って坑口のゴムリングに掛かるまでの間に土砂の流入が懸念されました。
これを防止するために到達立坑に水を地下水位まで張った状態で到達させることが最もリスクの少ない方法であるとの結論に達しました。
当現場においては止水器も改良を行いました。今まで坑口の止水ゴムをワイヤ一等で締め付けてヒューム管と止水ゴムの間から出る水を止めていましたが、今回は止水ゴムの前にゴムのチューブを取付け、これに水や薬液を注入することで強制的に止水ゴムをヒューム管に押しつけることにより止水性を高めるようにしました。
水中到達の手順
- SMW到達前15m(HP6本分)の地点までに、掘進機の向きを法線上に合わせ修正を0にする。
- SMW到達前15mの地点で掘進機の位置を正確に測量し、到達立坑の鏡部に到達予定点を出す。
- この日より日進量を1本程度にし、到達立坑に坑口取付け作業を開始する。
- 坑口が取付けが終わったら、直ちに到達立坑に注水を開始する。
- 掘進機がSMWまで到達し掘進機を確認できた後、面板の回転を止める。
- 潜水夫を入れ、掘進機が坑口に当たらないかを確認させる。
- 無事に掘進機が坑口のゴムに掛かったら、坑口のチューブに水を注入して止水を行う。
- 立坑の排水を行い、到達受け架台を設置した後、再び立坑に注水を行う。
- 掘進機を架台の上に押し出す。
- 坑口のチューブに、懸濁型の薬液を注入し止水を行う。
- 再度立坑の排水を行い、掘進機を回収する。
水中での確認は潜水夫のみとなるため不安はありましたが、上記の手順により無事掘進機の回収を行うことができました。
今後、水圧の高い現場での参考になればと思います。
※ SMW - 土(Soil)とセメントスラリーを原位置で混合、撹拌(Mixing)し、地中に造成する壁体(Wall)の略称