計測ハウスでの遠隔集中管理 滑走路下φ1500×109m土圧式推進
本工事は福岡空港用地造成に伴う排水管布設工事で、滑走路下に、内径1500mmのヒユーム管を延長109m布設する工事です。
施工は航空機の離発着終了後の夜間ですが、昼間は施工中の推進管路の上を航空機が離着陸を繰り返すところであり、掘進中切羽の崩壊等が発生した場合は滑走路表面への影響が考えられます。
それらの問題克服のための工法の選定及び地山の管理における検討、対策について報告します。
まえがき
福岡空港用地造成(排水工)工事で計画されている推進工は、管径がφ1,500mm、推進長L=109m、土被りH=4.14~5.35mで切羽掘削断面が2.54m2であり、通常の下水道工事等では地山の土質状況により泥水式、土圧式、刃口式工法等から選択採用されますが、当工事においては、空港滑走路直下を横断する管路工事であり、また到達立坑近傍には空港の重要構造物である精密進入角指示灯が設置されているので、これらの構造物に影響を与えないで掘進することが最も重要な施工条件となります。
これらの条件をクリアするために、掘進磯には泥土圧式を使用し、管理方法についてはシールド工法においては以前からよく用いられていた掘進管理システムを今回の推進において採用することとしました。
地表面及び地山の変動については、発進及び到達にそれぞれ1箇所ずつ地盤変移計測計(層別沈下計、多段式傾斜計、水盛式沈下計、温度計)を設置し、地中においては鉛直変移、水平変移を、地表面に関しては沈下量及び温度の変化を、24時間自動監視記録するようにしました。
工事概要
工事名称 | 福岡空港用地造成(排水工)工事 |
施工場所 | 福岡市博多区福岡空港構内 |
工期 | 1997年11月20日 ~ 1998年8月31日 |
企業者 | 第4港湾建設局 |
工事内容 | φ1500mm推進工 L=115.30m(推進用ヒューム管) 開削工他 |
地質の概要
推進管路部の土質状況は、N値が4~5のルーズな砂利混りの砂質土で径50mm程度の礫が存在するものと考えられ、地下水はGL-1.00mでした。
推進工法の検討 <推進工法の概要及び特性>
刃口式推進工法
推進管の先端に先導体として刃口を装着し、後方の発進立坑内に設置した推進設備(油圧ジャッキ等)によって推進管を押込む工法で管内での切羽の掘削、積込みは人力により行い、掘削土はトロバケットにより搬出する。
尚、切羽は解放されているため、崩壊性のある土質の場合は補助工法(薬注等)により切羽の土質を自立させる必要がある。
泥水式推進工法
掘進機前面のカッタ後方に隔壁を設け、切羽と隔壁の間の泥水室に地下水圧に対抗する泥水を圧送し、切羽の安定を図りながらカッタを回転させて掘削を行う工法。掘削した土砂は泥水と攪拌し、排泥管を通し排泥ポンプで坑外に流体輸送する。
さらに排泥水は坑外に設置した泥水処理装置により土砂、再利用泥水及び処理泥水に分離し、再利用泥水は比重調整を行った後再び送泥水として循環させる。
土圧式推進工法
掘削土砂の塑性流動化を促進させる添加材を注入しながら掘削した土砂を攪拌混合してチャンバ内に充満させ、その圧力を保持して切羽の土圧及び水圧に対抗すると共にスクリューコンベヤによって圧力調整しながら掘削土砂と排土量をバランスさせて掘進する工法。
掘削土の排出方法は、スクリューコンベヤから直にトロバケットに積込む方法と圧送ポンプにより坑外に搬出する方法がある。
推進工法の概要及び特性を比較し、当現場に適した工法を選択しそれに付随したサポート管理体制を検討しました。
先ず、当作業所での適用条件として次のことがあげられます。
- 切羽地山の崩壊を引き起こさないこと
- 推進延長109mが施工可能であること
- 立坑が昼間は、履工管理であるため推進設備が大がかりでないこと
- 推進の遠隔管理、操作が出来ること
前記条件を満たす工法を検討すると、刃口式推進工法は1.4.の条件で問題があり薬液注入等の補助工法を併用したとしても、切羽安定という目的が十分に果たせない。また施工日数に関しても、他の工法と比較して最も日進量が少なく施工日数がかかるために余掘部分の影響が地表面に出やすく当工事には適していない。
次に泥水式推進工法は当現場の地山には適しており施工日数が最も少なく施工することができるものと思われるが、残土処分のための処理プラントの設備が他の工法と比較して大がかりとなり、立坑の中にプラントを設置するためには大規模な立坑が必要となり、費用の面で不利となる。
また切羽の安定という面から考えても地山を掘削した土砂に圧力を加えて地山を押さえながら推進していく土圧式と比較した場合、泥水を加圧して切羽の安定を計りながら掘削していく工法であるため、地山の透水性の変化に対して逸泥水、憤発等が考えられ、土圧式よりも信頼性が少ない。
最後に土圧式推進工法は、日進量では泥水式よりも劣るものの当現場で最も考慮しなければならない切羽の安定という面では他の工法よりも前記のとおり優れている。
また設備的にもそれほど大きな設備を必要としないため当工事に適している。
以上のような検討結果より、土圧式推進工法で施工することに決定しました。
遠隔管理システム
発進基地となるNo4立坑は、滑走路の横に位置し昼間は履工管理で立ち入ることができないために空港施設の一部に計測ハウスを設置してそこから管理することとしました。
管理項目は次のとおりです。
- 切羽土圧
- 掘削トルク
- 排土量
- 添加材注入量
- 推進速度
- 推進力
- 掘進機排土ゲート及び発進立坑内のTVモニター監視
推進中は1~7の監視記録を行い、昼間の推進停止中は計測ハウスにて1、7の監視を行い切羽土圧が下限設定値以下に低下した場合は、自動的に推進用ジャッキが始動し設定値まで土圧を上昇させ停止する。
また遠隔操作により手動で添加材の注入を行う。以上の措置により切羽土圧の安定を図るよう計画しました。
推進開始後滑走路の下に掘進機が到達する迄に前記のテストを行い正常に作動することを確認しました。
掘進機及び推進設備の改造
掘進機に関しては、通常はφ1,500mm以上の掘進機は機内操作となりますが当現場では、遠隔操作ができる当社のKDモールを使用し排土量の管理ができるように排土用のスクリューコンベヤに回転計を設置して、スクリューの回転によって掘削土量を検出できるようにしました。
また推進設備に関してはジャッキ伸長を計測する検出器のアナログ信号をデジタル信号に変換させて計測ハウスのパソコンへ送り、監視できるようにインターフェイス等の機器を設置しました。
これにより掘進中の残土の取込みが、掘削断面だけのものなのか、余分な取り込みによる管路部への空洞発生が起きていないかを把握することができるようにしました。
推進施工
掘進磯を立坑内に搬入後、3月12日に鏡切りを行い推進に入りましたが、推進自体は添加材等も土質にマッチして、順調な排土が行われ、切羽も安定しており順調にスタートしました。
しかし、遠隔管理システムにおいて立坑内に滑材注入プラント等を全て配置したために、インバーター等から発生するノイズにより、計測ハウスへ送るデーターが途中から消えたり跳んだりして正確な記録ができなくなりました。
特に元押しジャッキの伸長を表すデーターが途中で切れたりしたために、掘削土量は分っても掘進長が幾らに対しての土量なのかが把握できない等の問題が生じました。
ノイズに関しては計画当初よりある程度のことは予想されたため、掘進機等には予めノイズ防止装置が搭載されていましたが、距離が長くなったりした場合どうしてもノイズの影響を受けやすくなり、また注入プラント等のインバーターから発生するノイズ以外にも発生しており、防止処置としてそれらの機器へのノイズキラーの設置、送信用ケーブルをノイズをひろいにくい線に交換する等の対策を行い、ノイズの軽減に努めました。
これによりデーターが跳んだりすることが少なくなりました。
推進に関しては、途中で推力が上昇しましたが、当初計画の2液性の滑材の他に1液性の滑材を併用することにより解消でき、5月20日に無事に到達立坑で掘進機の顔を見ることができました。
あとがき
当現場のように、推進管路部付近に重要構造物が存在してそれらに対しての影響が心配される場合の推進工法としては、今回使用した土圧式推進工法は添加材等を十分に考慮に入れながら計画すれば、最も切羽の安定が得られる工法であると思われます。
今後、同様な場所での工事も多くなると思われますので、本工事の経験が以後役に立つことを願います。