アルティミット泥水式推進工法 長距離推進
はじめに
江戸川は、関宿地点で利根川と分流したのち、いくつかの中小河川の流入を受けつつ、ほぼ南流し東京湾に流入しています。
この流域の水質汚染対策として、昭和45年9月に事業計画がたてられました。
本工事の松戸幹線は、北は野田市から南は浦安市までの、8市にまたがる江戸川左岸流域下水道事業の一環です。松戸市から始まり、現在建設中の東京外環自動車道に沿って、市川市で江戸川幹線に接続します。
工事は外環道路の側道の下に、管径1650㎜~2000㎜の管を埋設する計画で、外環道路供用開始に合わせて整備が進められています。
松戸幹線は総延長8.5㎞で4工区あり、3工区がシールド工法で当社が施工する工区は唯一の推進工法となっています。
また推進距離が920mの長距離となっているので、内外ともに注目されました。
工事概要
工事名 | 江戸川左岸流域下水道管渠築造工事(松戸幹線501-3工区) |
発注者 | 千葉県江戸川下水道事務所 |
請負者 | 大日本・湯浅特定建設工事共同企業体 |
工期 | 平成26年7月5日 ~ 平成27年11月26日 |
施工場所 | 市川市国分1丁目地先 ~ 菅野6丁目地先 |
工法 | アルティミット泥水式推進工法 |
推進管径 | Φ1650㎜ |
土質 | 砂質シルト |
推進延長 | 920.529m |
曲線 | R=1000 CR=98.8m 他3か所 |
土被り | 10m ~ 11m |
その他 | φ1650㎜刃口推進 L=15.4m |
Φ350㎜小口径推進 |
施工内容
本工事は外環道路工事の遅延の影響を受け、当初供用開始日よりかなりの遅れが生じているので工期短縮が大きな課題でした。
推進工事で工期を短縮するには、日進量を上げる事が重要で中押設備がある長距離推進の場合は、元押だけでの施工でどこまで距離を伸ばせるかが日進量に大きな影響を与えます。
本工事は推進延長920mで、中押設備は先端から150mと450mの2か所に配置されています。
中押し1か所使用しての施工は元押のみと比較して日進量は半減し、2ヶ所使用するとさらに低下するので元押だけでの施工を目指しました。
長距離推進における中押使用の有無は、主に推進力で決定されるので推進力低減対策に留意して計画を進めた結果、中押を使用せず低推力で到達しました。
具体的な長距離推進対策としては、
- 自動滑材充填システム
- 滑材の選定
- テールボイド測定
- 掘進機補助筒
- 推進管塗布材
- 精度管理
を重点項目としました。
計画推力 | 10,385(KN) |
元押設備能力 | 12,000(KN) |
支圧反力 | 7,499(KN) |
管種 | σC=50(N/mm2) |
管耐荷力 | 9,450(KN) |
※計画推力の80%の管理推力を下回り、元押だけで推進できた。
※850m付近で障害物に接触した影響で、推力が一時的に急上昇した。
長距離推進対応策
自動滑材充填システム
アルティミット滑材充填システム(ULIS)は通常1系統50mピッチで滑材を自動制御しながら注入しますが、今回は2系統25mピッチとしました。
2系統では2ヶ所同時に注入する事で効率を上げ、不慮の事態で1系統が注入不能になった場合、もう1系統で注入できるので推進を中断することはありませんでした。
25mピッチを多孔管と組み合わせることで、相乗効果で管外周全面に滑材が充填されて推力が低減されました。
滑材の選定
施工条件の類似した大師運河工事で実績のあるアルティ―kを1次、2次滑材両方に使用しました。
(大師運河工事 Φ2200㎜ L=1164m 砂質シルト 1次、2次滑材アルティ―k 低推力で到達)
アルティ―k練り混ぜ状況 練り混ぜ後の状態
テールボイド測定
弾性逆止弁を50mピッチでグラウトホールに設置し、テールボイド量・滑材の充填状況・地山の状況を測定して表にすることで、掘削管理(掘削土量)・注入管理(注入量、注入位置)に活用しました。
テールボイドの状態を測定把握することは、推力の上昇・地盤沈下等を未然に防ぐことができ、また推力上昇後の原因究明には必要不可欠で、施工管理上、極めて重要な役割となっています。
テールボイド測定、滑材抜取器 弾性逆止弁
掘進機補助筒
掘進機後方に、補助筒を挿入し、不測の事態を考慮し縁切り推進を可能としました。
補助筒には100tジャッキを4台装備し、油圧ユニットに配管して作動できる状態にしましたが、低推力で推移したので使用することはありませんでした。
掘進機補助筒 100t×400st×4台装備 1油圧ユニット
推進管塗布材
推進管外周コーティング剤(ユータック)を推進管に塗布し、推力低減を図りました。
コーティング剤を推進管外面に塗布することにより、吸水を抑えるとともに撥水性をもたせ、粘着力が大きい地山や無水層での滑材の付着を防ぎます。
材料はエポキシ樹脂系で耐久性があり、平滑性・撥水性に優れていて、コンクリートを劣化させない性質があります。
使用は2液を混合しローラーで塗布しますが、一定の養生時間が必要なので、今回はヒューム管工場で塗布し現場に搬入しました。
右側コーティング有は滑材が滑り落ちるのが分る
精度管理
長距離曲線推進で計画路線に沿って高精度で推進することは、施工品質上の問題だけではなく、方向修正幅を少なくすることで基線に沿った滑らかな線形になり、施工中の推力低減にも有効です。
本工事では高精度への対応として、光ファイバージャイロコンパス、自動測量システム、電磁誘導チェック測量装置(モールキャッチャー)を採用し正確な線形を形成しました。
推進途中に障害物に遭遇し掘進機がローリングしましたが、ローリングに対応する光ファイバージャイロは故障することなく再始動し、正常値を表示しました。
モールキャッチャー地上測定状況 モールキャッチャー管内発信機取り付け 推進機内、光ファイバージャイロ取り付け
おわりに
推進距離850m付近で外環道路工事の仮設鋼矢板に接触しましたが、速やかに対処し再発進を行い、所定の位置に到達しました。
長距離推進対策を確実に実施することで、大幅な工期短縮につながり、発注者・元請から高い評価を得ることができました。