アルティミット工法の最新技術紹介
我が国における推進工法は、1948年に第1号工事が兵庫県尼崎市内で施工されて以来、半世紀余りが過ぎました。
この間、工法技術の進歩は目覚ましく、都市土木技術として工事公害が少なくかつ経済的な工法として高い評価を受けてきました。
しかし、近年、都市機能の密集化が進む中、下水道・電力・ガス等をはじめとするパイプライン整備は、交通量の増加や地中環境の保全、地下埋設物の輻輳化から長距離・急曲線の要望が多くなってきています。
アルティミット工法は、長距離・急曲線を低コストで高品質に提供できる推進工法として開発され、平成3年に施工を開始して、平成15年度末までに推進延長110kmを越える実績をあげ、社会の要望に応えてきました。
また、比較的浅い地中空間では埋設物が輻輳していることから、大深度への施設計画が増加してきています。
さらに、道路占有の制約や周辺環境の保全と、その実施工の条件は非常に厳しいものとなってきています。
アルティミット工法は、このように多様化する難しい施工条件に対応できるように、長距離・急曲線をはじめ、大深度推進、分割回収推進、小口径管推進等の新技術の開発に努め、地中ライフライン整備の向上に貢献しています。
今回は、下水道展’04横浜で紹介された新技術を紹介します。
大深度・大口径管の急曲線推進工法
本工事の特異性は、通常の推進工事に比べ土被りが最大35.8mと非常に深く高水圧下での推進施工となること、推進管内径が3000mmでは超急曲線の範疇に入る55mの曲線施工を含んでいる推進工事です。
掘進機は、高水圧対策が可能な泥水式掘進機が選定されました。
掘進機の中折れ部は、高水圧に耐えることができる高水圧対応シールを装備しました。
推進管は、本工事の高水圧下(0.4MPa)では継手部の止水性能が不足するため、止水性能の確保とともに管渠構造物としての強度も確保できる大深度用合成鋼管が採用されました。
地下水は、約GL-2.1~-5.2mにあるため、掘進機前面には約350kN/m2以上の高水圧が作用することとなります。
そのため、発進立坑内にはジャッキ押付方式によるバッキング防止装置を設置しました。
大深度で大口径の長距離推進であることから、自動滑材注入装置を採用し滑材注入による推進力の低減を図りました。
注入方式は、掘進機直後の一次注入と推進管路での二次注入の2系統方式を採用しました。
結果、推進施工は低推進力で高精度に完了しました。
推進条件:呼び径3000mm×278.8m(R=55m)
アルティミット分割回収推進工法
到達立坑の構築が困難で既設人孔等の地下構造物に直接到達させるための推進方法として、低コストで安全確実に施工できるアルティミット分割回収推進工法を開発しました。
本工法は、掘進機面板の回転軸を中心とした駆動機構部を、一体化させたままの状態で分割回収することを基本としています。
従って、掘進機内の機器や部品等を細かく分解する必要がなく、分割回収のために費やす時間が短縮できるとともに、駆動機構部が一体化されて回収できるため、掘進機の再利用に際して複雑な組立てや配管接続及び微調整等を必要としません。
適用工法は、泥水式推進工法を基本とし、適応管径は、呼び径1500mmから3000mmです。
推進力の算定は、アルティミット工法泥水式の算定式に準じて行ないます。
適応管径:呼び径 1500m/m ~ 3000m/m
泥水式推進工法で施工
コスト縮減可能な防爆型推進工法
本工事は、住宅が密集する狭い曲がりくねった道路下から、交通量の多い国道2号線下をSカーブで斜めに横断する非常に難しい条件下での長距離・急曲線推進工事です。
また、事前の地層構成の調査では地中には多くのメタンガスが賦存していることが確認され、施工に際しては細心の注意を払った防爆対策が求められました。
従来、行なわれていた防爆対策は、「掘進機や推進管内に侵入した可燃性ガス」に対して、掘進機や坑内設備の発火源を抑えるために、機器類やスイッチ類を防爆改造する方法が採用されてきました。
この方法は、改造費用が非常に高価となることや坑内にメタンガスを存在させるという前提に問題がありました。
この問題点を解決するために、本工事では「掘進機や推進管内に侵入したメタンガス」に対する防爆設備ではなく、「掘進機や推進管内に侵入しようとするメタンガスを完全に遮断する」ことを基本としたより安全な防爆対策を採っています。
掘進機は、前方を隔壁で密閉し、隔壁より前方に加圧泥水を圧入させて切羽面を泥水圧にて保持し、掘削土砂を加圧泥水の還流によって坑外に連続して流体輸送する泥水式掘進機が採用されました。
また、推進施工中、推進管内へのメタンガスの侵入が最も懸念されるのは、推進管の継手部です。本工事では、止水ゴムとは別に耐気性・耐水性に優れたTSシール材を充填することによって、メタンガスの侵入を遮断する計画を立てました。
TSシール材は、水酸基末端液状ポリブタジエンゴムを主成分として、強力な弾性力と粘着力、優れた復元力を有して管継手部のメタンガス侵入を防止します。
推進工事開始から終了まで、作業中に坑内にメタンガスを検知することなく、無事工事を低コストで安全に完成させました。
推進条件:呼び径1650mm×500m
R=150m(7箇所)
R=70m(2箇所)
小口径アルティミット工法
本工法は、大中口径管の分野で推進延長が110kmを越える実績を残し実証されている長距離・急曲線推進のアルティミット工法技術を基本として、小口径管の分野でも長距離・急曲線推進が可能な技術を確立しています。
施工条件や土質条件に合わせて、泥水式一工程方式と泥土圧一工程方式が準備され、効率の良い推進施工を提供します。
適用管径は、呼び径250mm~700mm、適応最小曲線半径はR=50mとなっています。
急曲線の対応の主要な技術としては、推進管を掘進機の造成したトンネル孔への追随性と確実な推力伝達をさせるセンプラカーブシステムや推進管の屈曲に対応する急曲線対応送・排泥管があります。
品質・精度管理の主要な技術としては、遠隔操作を一元化した中央集中管理システム、曲線区間の精度管理を行なう小型ジャイロコンパスおよび電磁誘導測量装置(モールキャッチャー)があります。
小口径管の推進工事は、比較的低土被りの施工条件が多く、推進時の掘削土量の取込み過ぎや取込み不足は、瞬時に発生します。
このため地中環境の保全として、泥水方式では掘進機の適正な掘削土量を管理するために、泥水式掘削管理システムも装備できます。
超長距離・複合曲線を小型立坑から施工
工法 | 泥水 |
曲線 | R=300m、250m |
管内径 | 呼び径 400mm |
発進 | φ2.5m |
推進延長 | L=212.2m |
土被り | 3.0m |
土質 | 砂質シルト、風化岩、 N=5~50 |
R=60の急曲線を小型立坑から施工
工法 | 泥土圧 |
発進 | φ2.5m |
推進延長 | L=106.3m |
到達 | φ1.5m |
管内径 | 呼び径 500mm |
土質 | 砂混じりシルト N=10 |
曲線 | R=60m |
土被り | 4.1m |
N値<=1の軟弱土で曲線施工
工法 | 泥土圧 |
発進 | 3.0×6.14m |
管内径 | 呼び径 450mm |
到達 | φ2.0m |
推進延長 | L=137.5m |
土質 | シルト、粘土 N<=1 |
曲線 | R=400m |
土被り | 3.6m |
巨礫・岩盤層を小型立坑から施工
工法 | 泥水 |
発進 | φ2.5m |
管内径 | 呼び径 450mm |
到達 | φ1.5m |
推進延長 | L=129.6m |
土質 | 巨礫、岩盤 N>50 |
曲線 | R=60m |
土被り | 1.9m |
Reキューブモール(リキューブモール)
本工法は、非開削による既設管渠の撤去技術です。
都市部の地下空間は、都市活動を支える上下水道や電気施設等のライフラインをはじめ、様々な用途の地下構造物で過密状態となっています。
地下利用が進むその一方では、耐用年数を超えて老巧化した管渠や、硫化水素に起因するコンクリート構造物の腐食により短期間に劣化した管渠も認められます。
また、管渠の新設やルート変更等により、不要となる管渠も発生しています。
不要な管渠を地中に放置することは、地下の有効活用を図る上で障害となります。
劣化の著しい管渠は、安全性という点でも課題を残すことになります。
これらの撤去には、地下埋設物、地上交通、周辺生活環境への影響が少ない非開削での施工技術が求められています。
本工法は、既設管種や土質などの施工条件によって、アーマー工法(さや管方式)、ルーパー工法(引き抜き工法)、イーター工法(破砕工法)の3種類の工法が選択できます。
ルーパー工法 実験施工
既設管種 | 呼び径 1,350mm、推進延長 L=2.43m |
引き抜き距離 | 9.72m(推進管4本) |
土被り | 5m |
土質 | 砂礫 |
約半年前に推進工法で敷設したφ1350mmの推進管を4本分、撤去・埋め戻ししました。
管内に設置したグリッパー装置で管を把握し牽引することで推進管を引き抜き撤去しました。