「ステーション工法の開発」「第9回非開削技術研究発表会」の報告について
はじめに
シールド工法や推進工法では、推進機等を吊り降ろし地中に発進させたり、推進終了後には掘進機を解体して吊り上げたり、トンネル構築中における掘削土砂の救出、資材及び諸機械の搬出入、作業員の昇降等のための発進、到達立抗の構築が、必要不可欠な要件となっている(図-1参照)。
一般に、地中敷設される公共的な管路は、道路下に構築することを原則としており、地下埋設物、交通状況、沿線の環境等が調査されて、発信基地や到達基地の位置が決定されている。
特に、大都市圏における工事ほど都市活動等を阻害しないための諸条件が厳しく、道路内での立坑及び作業基地の確保が厳しくなってきている。
さらに、工事の規模が大きいシールド工事や長距離の推進工事では、工事期間が長くなり、道路内に構築された立坑や作業基地が長期間にわたって道路を占有し、交通障害を起こし都市活動を阻害することがある。
今回は、管路敷設のための発進、到達基地を路面に設けず、道路下に構築し、シールド工事や推進工事が実施できるステーション工法の構成を紹介し、管路敷設工事における各工法の社会的費用を算出し、工事費を含め比較したものを報告する。
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ステーション工法の概要
本工法の概要を図-2に示す。管路敷設が計画される道路下に発信基地や到達基地を構築するために、道路沿いの空地を利用して、ステーション用立坑(以下、立坑)及び作業基地のスペースを確保し、この立坑より、管路計画位置に向かって、発信基地や、到達基地となるステーション用横坑(以下、横坑)が構築される。
横坑の延長は、横坑の先端部分で管路敷設のためのシールド施工や推進施工が行える位置まで計画され、構築される。
横坑の形状は、シールド工事や推進工事の作業性を考慮して、効率の良い矩形断面が原則として採用される。
ステーション工法の構成
本工法は、横坑と立坑とにより構成され、立抗としては、掘進機や推進管、セグメントを吊り降ろし、横坑内に取り込んで発進作業を行うための発進立坑と、掘進機等を横坑内から取り出し、回収するための到達立坑とに区分される。
ステーション用横抗
横坑の大きさは、敷設される管渠断面の大きさや形状、管路延長、立坑の使用目的(発進か到達)によって、断面寸法が検討され、決定される。
発進横坑としては、シールド工事では増進機及びセグメントの搬入、掘進機の発進設備等のスペース確保を必要とする。
また、推進工事においても、掘進機及び推進管の搬入、掘進機及び推進管の発進設備のスペース確保が必要となる。
(図-3参照)。
推進機は、管長を長くすれば、接続等の作業が少なくて済み効率的であるが、発進横坑の幅や発進立坑の幅を大きく計画しなければならず、経済性や立地条件等を十分に検討して決定することが重要である。
到達横坑としては、掘進機の回収が行えるスペースの確保が必要である。
到達立坑の立地条件等で掘進機全長の幅が確保できない場合には、掘進機の分割を事前に検討して対処する。
横坑の構造は、コンクリート構造や鋼構造で、前記諸条件を考慮して検討され、施工性や経済性を含めて決定される。
一般に、断面形状が比較的小さい場合には、鉄筋コンクリート構造のものが経済的であり、大断面になると、PCコンクリート構造や鋼構造が施工性等で有利となってくる。
横坑の製作は、工場製作と現地製作があり、横坑断面及び延長、現地の立地条件、運搬ルート等を検討して決められる。
工場製作される小断面の横坑の場合には、一般に推進方向に一定の長さで製作し、分離して運搬し、現地にて再び接合して一体化する方法が採られる。
接合方法としては、コンクリート構造ではPC鋼材による緊結方法が用いられ、鋼構造では溶接による接合方法が用いられる。
大断面の横坑の場合には、さらに断面を細分化して部材毎に製作することとなり、現地での組立が複雑となる。
現地での立地条件が合えば、立坑内で横坑を製作する方法を採用することで、運搬や組立の作業が不用となり、有利である。
横坑の推進施工は、管路敷設位置までの地中内で押し止めとなることから、基本的には、切羽部を開口した方式が採用される。
横坑の先端には、貫入抵抗の軽減と切羽破壊防止のために、開口部を小断面に区分する棚付刃口が装備される。
通常、到達横坑に比べて発進横坑の方が、横坑内に推進設備等を設置する関係で大断面となる。
ステーション用立抗
立坑には、発進立坑と到達立坑があり、横坑の大ささによって、形状や断面寸法が決定される。
立坑の構築は、土質条件、立地条件、掘削深さ等を調査・検討して、鋼矢板方式や連続地中壁方式等の最善の土止方法が選定され、構築される。
立坑には、横坑を所定の位置まで推進埋設するための推進設備が必要となる。
土質条件や推進延長、横坑の形状から事前に推進力が算出されて、それに相当するジャッキや設備が準備される。(図-4参照)
立坑の断面は、発進横坑と到達横坑の断面が異なるために、それぞれの横坑の発進施工が可能な大きさで構築される。
補助工法
横坑の推進施工は、原則として切羽部を開放した状態での推進方法を採用しているため、土質条件の悪い地盤や大断面の横坑の場合には、切羽面の破壊防止のための地盤改良や、上部地盤の異動や沈下防止のため、弊社が開発したデスリップカーテン工法等の補助工法やパイプルーフ工法等の検討を必要とする。
ステーション用横坑内設備
横坑からのシールド工事や推進工事は、原則的に横坑内部での発進、到達施工になる。
そのために、立坑から発進、到達施工になる。
そのために、立坑から発進、到達抗口までの区間に、掘進機及び、セグメントまたは推進管を運搬する設備が必要になる。
さらに、推進工事の場合には元押しジャッキの運搬設備も必要となる。
クレーンを使用した運搬設備は、安全で効率的な運搬、据え付けが行えるが、横坑内にクレーン設備を設置し、掘進機及び、セグメントまたは推進管を吊り上げるためのスペースが必要となる為、横坑の高さが大きくなり、クレーン設置のために横坑の制作費用が高価になるという問題がある。
本工法では、立坑から発進、到達位置までレールを設置し、そこに移動機能を備えた運搬設備を設ける方式を主に採用する。
図-5に、管路敷設を推進工事で行う場合の発進横坑内概略図を示す。
ステーション工法の特徴
ステーション工法の特徴は、下記の通りである。
- 管路を敷設する道路上に工事基地を一切設けないため、車両や歩行者の通行等に支障を与えることがなく、第三者事故の危険性も低い。
- 道路内に立坑等を構築しないため、道路舗装の撤去、復旧工事、既設配管の移設工事もなく、それによる産業廃棄物の発生や、工事による騒音・振動もない無公害の工法である。
- 推進設備がほとんど横抗内に設置されるため、工事による近隣への影響が少ない。
社会的費用
管路敷設工事のほとんどは、道路を使用して行われるが、その結果、工事により交通渋滞や騒音、振動公害、舗装の品質低下などが起こり、近隣環境や物流、個人生活等に多大な影響を与えてしまう。
その際に生じる費用を社会的費用と呼んでいる。
これまで管路敷設工事などの工法選定において、社会的費用が十分に理解されて、有効に活用されていたとはいえないのが現状である。
管路敷設工事の社会的費用
管路敷設工事は開削工法と非開削工法に大別して行われているが、工法の選定を行う場合、定量的には各工法の工事費による比較がなされているだけで、その結果、土被りの浅いところは開削工法、深いところは非開削工法が採用されている。
しかし、土被りが浅くても交通量の多い道路での工事の場合、開削工法は車線規制等による交通渋滞や、工事による騒音、振動公害を発生させ、大きな社会的費用の負担を発生させている。
対して非開削工法は、車線規制が発進、到達基地の一区間で、それにより発生する交通渋滞を、開削工法の場合と比較して大幅に減少することが可能である。
また、騒音などによる近隣環境への影響も発進、到達基地近辺で発生するだけなので、社会的費用が少ないといえる。
また、ステーション工法では、道路上を使用することがほとんど無く、交通渋滞を発生せずに工事を行い、騒音等も防止することが可能で、通常の非開削工法よりも、さらに社会的費用を少なくすることができる。
このように、管路敷設工事の工法選択時に社会的費用を算出して工事費に加算し、社会全体がその工事に対して支払う総費用を比較、検討することが重要だと思われる。
各工法の比較
今回、開削工法、推進工法、そしてステーション工法+推進工法(以下、ステーション推進工法)の、費用の比較を行うこととした。
比較をするに当たり、統一した施工条件を仮定し、工事費と社会的費用を算出し、総費用を求めた。比較を行うに当たり、次に設定した項目を示す。
敷設管内径 | φ1,200(mm) |
施工距離 | 700(m) |
土質条件 | 砂質土 |
作業区分 | 昼間施工 |
土被り | 3.5(m) |
開削工法 | 700(m)の現場を7工区に分けて施工 |
推進工法 | アルティミット泥水工法 |
ステーション推進工法 | 鋼製ボックスカルバート □7.6×3(m) L=9(m)刃口推進 アルティミット泥水工法 |
現場環境
- 影響を受ける1日当たりの平均通行車両数 10,000(台)
- 施工区間昼間居住者数 500人
- 4車線道路の片側2車線を使用
- 施工開始、終了地点近辺に公園、空地有り
- 通行車両は迂回路等を使用しない
なお、社会的費用を算定するにあたり右記の2項目を取り上げた。
- 交通障害
- 交通規制に伴う速度低下による時間損失
- 渋滞等による燃料損失
- 近隣環境への影響
- 騒音による損失
- 泥土、挨の除去
また、各項目の算出方法を次に示す。
交通障害
- 時間損失
各工法毎に車線規制により生じる速度低下を調査し、自動車が一定区間を通過する時間の差を求め損失時間とし、平均時間単価(参考文献2)を乗じた。 - 燃料損失
一定区間を走行するための燃料費を求め、各工法毎の区間通過時間の比率に乗じた。
近隣への影響
- 騒音
施工前の交通等による騒音値と各工法で生じる工事騒音値を複合し、複合騒音値から施工前環境騒音値を減じ、単価(参考文献3)を乗じた。 - 泥土、挨
各工法により生じる、泥土や挨の量を概算で表し、それを掃除するために必要な時間と単価(平均国民所得より)を乗じた。
比較結果
今回の設定条件下での各工法の工事費と、社会的費用との算出結果を表-1及び図-6に示す。
その結果として、以下の事がわかった。
- 工事費は、ステーション推進工法、開削工法、推進工法の順で高いが、社会的費用を加えた総費用では、開削工法がステーション推進工法より高くなる。
- 各工法の社会的費用の工事費に村する割合は、ステーション推進工法が0.2%、推進工法が18%なのに対し、開削工法は30%に達する。
- 開削工法、推進工法ともに、交通障害が社会的費用の中で占める割合が極めて大きいが、ステーション推進工法は交通障害の損失が無い。
工法名 | 開削工法 | 推進工法 | ステーション推進工法 |
---|---|---|---|
施工日数 | 210日 | 260日 | 300日 |
工事費 | 255,000 | 233,500 | 311,500 |
社会的費用 | 75,000 | 40,500 | 500 |
交通障害 | 70,000 | 40,000 | 0 |
近隣環境への影響 | 5,000 | 500 | 500 |
総費用 | 330,000 | 274,000 | 312,000 |
考察
- 非開削工法は、開削工法と比較して社会的費用が少ない。今回、比較項目に挙げていない掘削残土の運搬による公害や、残土処分地の確保による環境への影響も考慮すると、より少なくなるといえる。
- ステーション推進工法は他の2工法よりも、社会的費用が非常に少ない。今回、比較項目に挙げていない既設埋設配管の移設等を含めて考えると、施工前の事前調査や調整日数も少なくすみ、施工日数の差もなくなり、相対的にステーション推進工法の総費用が小さくなる。都市部など交通量の多い地区や、住宅地など生活、環境を保全すべき地区での施工では、より有効な工法であるといえる。
今後の課題
社会的費用は、誰が負担しているかわからない、目に見えにくい費用といえる。
工事による恩恵を受ける人がその費用を負担するのは当然だが、恩恵を受けない人も負担しているのが問題である。
恩恵を受けない人がその工事に対し支払う費用を無くし、恩恵を受ける人が平等にその費用を負担する為に、社会的費用を算出する必要がある。
社会的費用を総費用へ導入するに当たり、その厳密な評価、算定は容易ではない。
費用の算出方法や交通障害、環境変化の予測の方法など、確立されたものが存在せず、ある程度の仮定の導入が必要で、しかもその仮定は社会的費用の算定に大きな影響を及ぼすからである。
また、社会的費用を算出するためには、充分な現場環境調査が必要で、それにかかる費用も考慮に入れなければならないが、正確な情報を得て、環境保全をするためには必要だといえる。
しかし、「比較結果」で示したように、今回の設定条件下では、非開削工法の総費用が、開削工法の総費用を下回ると確認できた。
今後、公共施設の構築費用の負担を平等にするために、早期の価格査定基準の確立が必要であると思われる。
おわりに
今回発表したステーション工法は、ピット工法という名称で1974年1月に工法特許として登録され、技術的には確立されている。
ステーション工法は、社会的費用がほとんど発生しない工法として、道路交通量の多い都市部や、生活環境を守るべき住宅地域の工事に対して、大きな効果を発揮する工法であるといえる。
ステーション工法が、今後の日本の都市管路敷設工事の重要な選択肢の一つとなるよう、さらなる工法の改良、改善を図っていく所存である。
最後に、この論文の執筆に当たり、御指導をいただいた皆様に、深く感謝申し上げます。
参考文献
- Ranier Kolator:管路建設における社会的費用の構成要素に含まれる価格選定法の準備 NO-DIG 98 8-11JUNE
- 石崎 他:工事中の道路の交通制限による車両の遅れ時間と経済損失についての検証 土木学会第50回年次学術講演会 講演概要集(Ⅳ-19)
- 横山 他:SP調査手法を用いた道路交通騒音の社会的費用に関する研究 土木学会第53回年次学術講演会 講演概要集(Ⅳ-264)
- 道路周辺の交通騒音状況-9沿道交通騒音状況研究会監修
- 道路環境影響評価要覧 建設省道路局企画課道路環境対策室監修