No.258 大口径管の長距離・超急曲線推進の難工事を克服したアルティミット工法

1.はじめに

本工事は、名古屋市の雨水浸水対策を目的とした大生雨水幹線下水道工事に伴う呼び径3000mm鉄筋コンクリート管(推進管)の推進工事です。
 立地条件は、南区室生町地内の国道247号線下を、S字曲線で道路下を進みながら、約440m先で交差点を右にほぼ90°直角に曲がって進み、到達するという厳しい条件となっています。
 本工事は、大口径の推進であるとともに、長距離・急曲線を伴う工事で、土被りも10m前後と深く、高水圧下での難しい施工条件となることから、工事前から綿密な検討・計画を行い、経済性や安全性に優れた泥水式アルティミット工法が採用されました。


2.工事概要

発注者:名古屋市上下水道局下水道本部管路管理設計課 同企業体
受 注 者:前田・五洋・浅沼特別共同企業体
施 工 者:機動建設工業株式会社
工 事 名:大生雨水幹線下水道築造工事
施工場所:愛知県名古屋市南区室生町地内
工   法:泥水式推進工法(アルティミット工法泥水式)
呼 び 径:3000mm
推進延長:L=554.45m
曲線半径:R=300、300、45m
土 被 り:9.9〜10.6m
土  質:砂質シルト
N   値:2〜17
地下水位:GL−1.3m

図−1 推進路線図
図−1 推進路線図 受注者:前田・五洋・浅沼特別共

3.本工事の課題

本工事での問題点は、交通量の多い国道下の縦断工事であること、呼び径3000mmの管径では超急曲線(R=45m)となる曲線推進を含んでいること、大口径で長距離(L=554.45m)の推進であること、土被りが10m前後と深く高水圧下の推進施工であることなどがあげられます。このため、以下の対応を検討しました。

3−1.工法の対応

当工区の地質は、地下水の多いシルト質砂を主体とした比較的ゆるい状態の砂層であり大口径の推進施工であること、また、立地条件が交通量の多い国道247号線下の縦断推進であることから、切羽の安定を最優先した工法および掘進機の選定が重要となりました。さらに、長距離で急曲線を含む複合曲線となっており、これらの条件も考慮した検討を行いました。
 地下水の多い、高水圧下のゆるい砂質土層では、切羽と坑内が隔壁によって完全に隔離され、チャンバ内に満たした泥水圧により切羽の安定が図れる泥水式推進工法が最も優れています。掘削土も泥水とともに流体輸送により連続して坑外に搬出され、チャンバ内や切羽面の圧力変動が少ないことが特徴です。また、曲線造成ジャッキを多段化することによって急曲線の施工も可能となります。
 以上の検討から、泥水式掘進機の急曲線対応の検討が必要とされました。

3−2.長距離への対応

推進工法における推進力は、掘進機先端の貫入抵抗である初期抵抗力と掘進機および管の外周と土の摩擦抵抗である外周抵抗力よりなります。初期抵抗力は、土質の変化がない場合にはほぼ一定値であるが、外周抵抗力は推進延長に比例して増大していきます。推進力が増大すると、推進管の許容耐力を越え管にひび割れが発生したり破損して、推進施工が不能となります。このため、掘進機通過後にできる空間に滑材を注入して、摩擦抵抗力を低減させる方法が一般に採用されています。
 
写真−1 標準配合のアルティークレイ
写真−1 標準配合のアルティークレイ
本工事では、地下水の多い長距離・急曲線推進であることから、地下水による滑材の希釈によってその効果が減少することや時間の経過によって滑材が地中に逸失したり変質してその効果がなくなります。このため、掘進機が造成した空隙に滑材を速やかに充填でき、同時に後続する推進管の複数の位置から全管均等に滑材が追加注入できる自動充填システムが必要となります。
以上の検討から、先頭推進管部から一次注入する滑材としては、地下水に希釈されることなく、時間の経過・管列の移動に対しても残留性に優れたアルティ−クレイを採用し、後続する複数の推進管部からの二次注入滑材として、摩擦抵抗の低減に優れたアルティ−Kを採用しました。注入システムとしては、一次注入はULIS(アルティ−クレイ)システムを、二次注入はULIS(アルティ−K)システムを用い、注入箇所を移設しながら全路線均等に滑材を注入します。両滑材は、中性滑材であり地中に残置しても地中環境を汚染することはありません。
 本工事における総推進力は、アルティミット工法協会式により算出しました。

総推進力 F = 21936kN
管の許容耐荷力 Fr = 29635kN
支圧壁反力 R = 39300kN
元押ジャッキ有効推進力 Fme =  24500kN

以上の結果、F<Fmeとなって、計画上では元押ジャッキ能力は十分ですが、長距離であり、土質の変化等によって初期抵抗力が増大した場合の対策として、中押装置を1箇所計画しました。

元押ジャッキ設備250t×10台
中押設備100t×24台

写真−2
写真−2
標準配合のアルティーK

3−3.急曲線への対応

本工事における曲線条件は、呼び径3000mm管では曲線半径R=45mは超急曲線であり、掘進機の計画曲線の造成および掘進機が造成したトンネル孔へ推進管を容易に追随させる技術が必要となります。また、急曲線部における管継手部の開口による止水性能の検討も必要となります。

 (1)曲線対応掘進機
曲線推進工事において、掘進機が計画された曲線を造成できる機構を有していることが基本となります。掘進機の折れ角は、計画曲線半径を造成するための折れ角よりも余裕をもっていることが必要となります。本工事においては安全率を1.5倍以上を確保するため曲線造成ジャッキを2段に配置した、多段折れ機構としました(掘進機の最小曲線半径R=30m)。
図−2 急曲線対応泥水式掘進機図

図−2 急曲線対応泥水式掘進機図

 (2)推進管
推進管は、(社)日本下水道協会の規格で、外圧強さにより1種と2種に、コンクリートの圧縮強度により50N/mm2と70N/mm2 と大別して製作されています。また、曲線半径の許容範囲は、管継手部の止水性を考慮して目地の開口長の限界値より求められ、その限界値は継手構造によってJA、JB、JCに区分されています。

JA管では30mm
JB管では50mm
JC管では60mm
(鋼コンクリート合成管では65mm)
本工事における曲線部の目地開口長は、
R=45m区間
S0=64.7mm(推進管長 L=0.8m)
R=300m区間
S0=55.3mm(推進管長 L=2.43m)
写真−3 鋼コンクリート合成管(MAX推進管)
写真−3 鋼コンクリート合成管(MAX推進管)

となっており、JC管が採用されました。また、土被りも10m前後と深く高水圧下であり、管にかかる外圧検討も行い、推進管としては2種管が決定されました。
 このため、本工事に採用する推進管としては、曲線半径R=45m区間を通過するものは鋼コンクリート合成管 (呼び径3000×L 0.8m)を、その他の区間にはWジョイント管(呼び径3000×L 2.43m)が採用されました。
 なお、R=45m区間を通過する鋼コンクリート合成管には、目地開口長が限界値となって余裕がないため、目地開口がそれ以上を越えて止水性を損なわないように、アルティミット工法技術の開口制限装置を採用しました。

図−3 推進路線管割図
図−3 推進路線管割図

 (3)センプラカーブ
従来の曲線推進では、管継手部の推進力の伝達は曲線内側の側端面で行われており、推進力の伝達面積が極端に小さくなって集中荷重として作用し、管が破損するという問題が生じていました。また、曲線内側の端面で推進力が伝達されるため、偏向による管のはらみ出しが発生し、継手部の止水性を損ねたり、掘進機への追随性を損ねることとなります。さらに、管のはらみ出しによって、掘進機の方向制御に支障をきたすという問題もあります。はらみ出しとは、曲線区間において推進管が徐々に曲線の外側に膨らんでいく現象で、管と管に角度がついているために、常に管に曲線外側へ押し付ける力が作用することから発生します。事実、過去の曲線推進工事において、はらみ出し現象が数多く報告がされています。
 上記課題である管の破損や曲線外側へのはらみ出しを解決するためには、広い面積で均一な応力が作用し、どの部分も許容応力以下になるように推力伝達を調整できる技術が必要となります。
図−4 シェルクラック

図−4 シェルクラック

このため、掘進機が造成した曲線トンネル孔に推進管をスムーズに追随させるために、本工事では図−5に示すように推進管の継手部に低発泡の推力伝達材(センプラリング)を上下に設置するセンプラカーブシステムを採用しました。センプラリングは、塑性変形の性質をもち、その性質を利用することによって推進合力の作用点を推進管の中央に近づけるとともに、広い範囲で推進力を伝達することができます。そのことによって、曲線内側のポイントタッチはなくなり、安全で確実な曲線推進が行なえます。センプラリングの選定は、計画時に各継手部の推進力を算定し、センプラリング選定ソフトを用いてその推進力による応力が、センプラリングの塑性領域内に入るように発泡倍率や厚さが決定されます。推進時は、その計画した推進力よりも大きくならないように維持し、推進完了まで継続した曲線管理が行われます

図−5 センプラリング設置状況図

図−5 センプラリング設置状況図

3−4.バッキングへの対応

本工事では、土被りが10m前後で地下水は約GL−1.3mにあり、掘進機下端の前面には約120kN/m2前後の水圧がかかることになります。初期発進時には推進管外周にかかる外周抵抗力が小さいため、次の推進管据付け時に元押ジャッキを縮小すると、地中に埋設した掘進機や推進管が発進立坑側に押し戻されるというバッキング現象が発生します。バッキングの発生は、掘進機前面の地山を崩壊させて近接する地中埋設物や道路上の通行車両および地上構造物に悪影響を与えます。特に、管径が大きくなる程その影響範囲は大きなものとなります。また、長距離推進対応のために、外周抵抗力が低減されていることも考慮しなければなりません。通常行われている簡易的なバッキング防止方法としては、推進管の外周をワイヤーロープ等で締め付けて固定する方法が用いられていますが、大きなバッキング防止力は得られなせん。
 本工事ではこれを防止するために、発進立坑前面に摩擦片押付方式によるバッキング防止装置を採用しました。バッキング防止装置の構成は、発進立坑壁に支持固定された支持枠に、図−6に示すように18台の油圧ジャッキが取付けられており、油圧ジャッキ先端の摩擦片で掘進機や推進管の外周面を締め付けることによって後退を防止する方法です。

図−6 バッキング防止装置
図−6 バッキング防止装置

 4.施工結果
現場における推進施工は、前記した綿密な検討・計画により順調に推移しました。以下に事前に行った課題対策についての状況を報告します。

4−1.長距離推進の対策

推進力は、計画推進力より低い値で推移しました。施工計画時における最終推進力は、21936kNに対して、最終縁切り推進力が14210kNで、最終推進力は8330kNでした。これは、自動滑材充填システム(ULIS)により当初から継続的な滑材注入を実施したこと、注入滑材として地下水に希釈されにくく、地盤から受ける圧力に対しても高い強度を発揮してテールボイドを保持するアルティ−クレイと、アルティ−クレイと管外周の隙間に注入されて摩擦抵抗を著しく低減させるアルティ−Kとを併用したことが主な要因と考えられます。


写真−4 自動滑材充填システム(中継Box)
写真−4 自動滑材充填システム(中継Box)
4−2.曲線推進の対策

曲線対応泥水式掘進機は、計画曲線を造成する折れ角の1.5倍の余裕をもたせた構造となっており、計画曲線に合った曲線トンネル孔の造成が行なえました。
 掘進機に後続する推進管列は、管継手部の中央部分の上下に設置したセンプラリングから推進力が広い範囲で伝達されるとともに、掘進機が造成した曲線トンネル孔に追随するようにセンプラリングは塑性変形して、適切な計画曲線を形成しました。推力合力の作用点を推進管の中央部分で伝達できることから、曲線内側端面でのポイントタッチはなく管のひび割れや破損が発生することはありませんでした。
 また、急曲線を通過する管継手部に設置した開口制限装置により、開口が局部的に集中してはらみ出すこともなく、均等に開口して正確な計画曲線を維持できました。
 このため、管継手部からの地下水等の浸水はみられませんでした。


写真−5 急曲線対応泥水式掘進機据付け状況
写真−5 急曲線対応泥水式掘進機据付け状況
写真−6 鋼コンクリート合成管推進状況
写真−6 鋼コンクリート合成管推進状況
写真−7 管内から見たセンプラリング設置状況
写真−7 管内から見たセンプラリング設置状況

4−3.バッキングの対策

自動滑材充填システムおよび注入滑材による推進力低減の影響もあって、当初想定した区間よりも長い区間でのバッキングが発生しました。バッキング現象は約100m前後まで発生したが、事前に検討・計画したバッキング防止装置が効果的に機能し、管の後退現象に伴うトラブルもなく作業の効率化が図られました。


写真−8 バッキング防止装置設置状況
写真−8 バッキング防止装置設置状況
4−4.その他の対策

推進時の測量時間の短縮、省力化をするため、推進中の姿勢監視はジャイロコンパスによる方位角表示をリアルタイムに行い、掘進機および推進管の精度測量は自動測量システムを採用しました。自動測量システムは、移動する管体内の可視距離をつなぐ位置に自動追尾トータルステーションを複数箇所設置し、お互いの位置を自動計測し、これらのデータをパソコンで演算して短時間で掘進機位置を検出するシステムです。
 長距離・急曲線推進である本工事では、測量時間の大幅な短縮が図られ非常に有効でした。推進の精度としては、前記した対策により右10mm、下20mmと高精度な結果を得ることができました。


写真−9 管内から見た超急曲線区間(R=45m)
写真−9 管内から見た超急曲線区間(R=45m)

 5.あとがき
本工事は、大口径管の長距離でR=45mと超急曲線推進という国内では例のない非常に難しい施工条件で、切羽の崩壊、推進力の増大、急曲線の精度不良などが懸念されましたが、事前の綿密な検討・協議による対応策で、道路はもとより通行車両や周辺住民に影響を与えることなく、無事工事を終了したことで、その効果が実証できました。
 アルティミット工法は、長距離・急曲線への対応、経済性・環境保全に優れた工法として技術の確立を行ってきました。今後は、雨水浸水対策として多くの計画が予定される大口径管の工事への提案を積極的におこない、地中ライフライン整備の向上に貢献していきたいと考えています。
 最後に、本工事を計画・施工するに当たり、ご指導・ご協力をいただいた関係各位に御礼を申し上げます。