No.230 アルティミット工法で長距離海底推進施工

技術開発部 中村 光伸

 1.はじめに
今回紹介させていただく工事は、福岡事務所「海の中道工事(玄海灘部)」です。本工事は、福岡市東区奈多の海岸沿いに位置する「海の中道海浜淡水化プラント」への導水管推進工事でした。完成すると、福岡都市圏に1日5万m3の水道用水を供給することになります。 推進機初期掘削状況

 2.工事概要
  • 管  径:1580mm(t=100mm)
  • 管  種:レジンコンクリート管
  • 土  質:砂質土
  • 土 被 り:3.53〜13.34m
  • 勾  配:−1.219%
  • 工  法:アルティミット泥水式工法
  • 工事体制:昼夜施工
3.推進施工報告

本工事は、陸地から海に向かい、810m先の海底でマシンを回収するという、国内では珍しい海底推進工事であり、計画時から想定される様々な問題に対策が取られました。その中で、アルティミット工法のシステムが多く採用されましたので、以下にその技術について、紹介させていただきます。 到達側海上からの全景

3-1.ULIS(アルティミット滑材充填システム)
a.アルティ−クレイ注入装置(図−1)

アルティ−クレイ注入装置(図−1)

海底推進では、海水に含まれる塩分による滑材性状の劣化が、推進力の上昇、路面(海底)沈下の原因となります。 そのため、耐イオン性(耐塩性)が非常に優れている特徴から、超高粘性滑材アルティ−クレイ(技研ニュースH13年3月号記載)が採用されました。
 アルティ−クレイ注入装置とは、同滑材を注入するための専用装置です。アルティ−クレイはA材とB材の二液混合で作液されます。 装置構成は、地上のULIS専用プラント(写真−1で作液されたA材と、管内に設置した専用装置からB材をそれぞれ別系統で圧送し、注入孔手前で混合器を用いて混合させ、テールボイドに注入します。 アルティミット中央集中制御室(写真−2)内に設置された操作盤では、「注入圧力、ポンプ吐出圧力、固定配合流量調整、注入量、その他安全制御」の管理が行えます。
 アルティ−クレイ注入装置は、発進後は順調に作動していましたが、160m地点でB材圧送制御にトラブルが発生し、クレイの作液が一時できなくなりました。 160m部から345m部の185m間で、推進管周面抵抗は0.5kN/m2→1.5kN/m2(750kN→3860kN)に上昇しました。その後、後述します「泥水式掘削管理システム」と、高粘性滑材アルティ−K注入用「自動滑材充填装置」を連用したことで推進管周面抵抗は1.0kN/m2になり、到達時には、当初の0.5kN/m2まで低減することができました。

写真−1(ULIS専用プラント) 写真−2(アルティミット中央集中制御室) 写真−3(アルティミット注入用自動滑材充填装置−管内バブルユニット)
 左から、写真−1(ULIS専用プラント)、写真−2(アルティミット中央集中制御室)、写真−3(アルティミット注入用自動滑材充填装置−管内バブルユニット)

b.自動滑材充填装置(写真−3、技研ニュースH.12年3月号記載)
 自動滑材充填装置は、アルティ−クレイ で完全に充填できなかった箇所にアルティ−Kを補足注入できるように採用されました。自動滑材充填装置は、管内50mピッチに滑材を注入できるように専用バルブユニットを設け、「注入圧力・吐出圧力・流量・推進管一本当たりの注入量・その他安全制御」の総合管理が行える装置です。操作盤は中央集中管理室内に設置されます。
 アルティ−Kには専用の「耐塩用添加剤」を混入させ、耐イオン対策を行いました。
 管内の注入孔間隔は、標準設置ピッチ50mを70mに変更し、10台の注入バルブユニットを設置しました。

3-2.特殊拡幅リング(写真−4)

特殊拡幅リングは、泥水式掘進機の先端周面に装備され、掘進機面盤から注入した泥水は、切羽の安定を図ると共に、特殊拡幅リングの溝を通り管外周面に均等充填され、掘削直後のテールボイドを保持し、管外周面抵抗を低減させます。 特殊拡幅リング(写真−4)

3-3 .自動測量システム(写真−5)
本工事は、φ1580mm 、815m と長距離推進施工であり、発進立坑からのダイレクトなセンター・レベル測量が行えません。測量の簡素化を図るために「自動測量システム」が採用されました。

 システムの構成は、発進立坑のダボ点に専用トランシット、掘進機に視準プリズム、その間150〜300m ピッチ(トランシットの仕様により異なる)に専用トランシットを必要数量設置します。中央集中制御室内に設置したパソコンのキーをタッチするだけで、専用トランシットが互いに自動計測して、それらのデータをパソコンで演算することで、掘進機の座標(X,Y ,Z )と、計画位置とのズレを数値と図面で表示します。
 それぞれの専用トランシットには、コントロールユニットが付属しており、パソコンからの指示を受け、「整準、サーチ、自動視準、測距測角」を自動で行います。トランシットの設置台数は、何台導入しても計測時間は平均15分程度です。今回は、管内には7台設置しました。
自動測量システム(写真−5)

 本工事で使用したレジンコンクリート管の内面は、鏡のように平滑に仕上がっており、サーチ・自動視準の際、トランシットからの赤外線が反射しエラーが続出しました。反射防止のために、管内にドーナツ状のリングを設置しましたが、効果はあまり得られませんでした。又、管内(写真−6)には動力・通信・操作線を含め、10本もの電気線が配線されており、何らかのノイズ等の影響を受けていたのではないかとも考えられました。

写真−6 管内配管配線状況 写真−7 リアルタイム計測システム
写真−6(管内配管配線状況) 写真−7(リアルタイム計測システム-表示例)

3-4 .リアルタイム計測システム(写真−7)
 推進精度管理において、より正確な精度を確保するため、自動測量システムの他に、「リアルタイム計測システム」が採用されました。
 リアルタイム計測システムは、後述する「ジャイロコンパス」「液圧差レベル計測装置」をパソコンで一括管理できるシステムです。パソコンは中央集中制御室内に設置されます。

a.ジャイロコンパス(写真−8)
 ジャイロコンパスは、掘進機の姿勢(方位角、ピッチ角、ロール角)を推進中にリアルタイムで把握できる計測装置です。
 推進後の測量結果にジャイロコンパスのデータを加えると、掘進機先端の位置算出が可能で、次の推進管推進時の方向修正量の算出も可能です。また、推進用ジャイロコンパスを推進工事に採用したのは1987年で、当社が日本では最初です。
ジャイロコンパス(写真−8)
 ジャイロコンパスの構造は、センサーユニット内に、2層のコマが内蔵されており、内層のコマを高速回転させると、重力軸方向に立とうとします。その際、外層のコマは常に北方向に向くようになっており、2層のコマの軸心と掘進機の姿勢角度差が「方位角、ピッチ角、ロール角」として検出されるようになっています。

b.液圧差レベル計測装置(写真−9)

液圧差レベル計測装置は、従来のレベル測量同様、発進立坑内に基準ベンチとなるように、基準センサー(PS1)を設置し、掘進機内にもセンサー(PS2)を設置します。双方のセンサーは、発進立坑に設置した基準タンクを経て、液体が充填されたホースで接続し、その水頭差を圧力検出し、変位測定します。これもジャイロコンパス同様に推進中にリアルタイム計測ができます。
 液圧差レベル計測は、水頭差を計測するもので、液体充填ホース内にエアーが混
液圧差レベル計測装置(写真−9)
入すると誤った測定値が出ることが多くありました。要因として、ホース脱着時のエアーの混入が考えられ、本施工時の作業では、迅速なエアー抜きが行なわれました。その結果、長距離推進にも関わらず、光学測量結果と比較しても「±8mm以内」の精度を維持することができました。

3-5 .多段式推進装置(ロングジャッキ)
 多段式推進装置は、3段伸びジャッキとも呼ばれ、シリンダーが、ジャッキ架台を基準位置として、後方支圧壁側に1段目、推進側に2段目、3段目と伸びて、ジャッキストロークが計3000mm伸びることになります。 これにより標準推進管(L=2430mm)を一度で押し切ることができ、ストラット設置作業が不要となるので、日進量の増加、工期短縮が望めることから採用されました。中央集中制御室内に設置された専用操作盤は、「推進力・ジャッキストローク・ジャッキスピード」がリアルタイムで表示されます

3-6 .泥水式掘削管理システム (写真−10、技研ニュースH.13年5月号記載)


泥水推進施工の泥水管理には、「3つの管理」が重要になります。

  1. 「泥水の比重・粘性」管理
  2. 「面盤の切羽圧力」管理
  3. 「掘削量」管理

これのどれを怠っても、「路面への泥水の噴出」「地山崩壊に伴う路面沈下」が発生する可能性があります。海底推進は、海底面状況が確認できないので徹底した「3つの管理」が求められ、「泥水式掘削管理システム」を採用することになりました。
 泥水式掘削管理システムは掘削土量(土量率%)をリアルタイム計測表示し、表示盤を中央集中制御室内に設置してあるので、掘進機オペレータ

泥水式掘削管理システム (写真−10、技研ニュースH.13年5月号記載)

が常時管理でき、安定した推進が行えます。
 システムの構成は、既設の「流量計、ストロークセンサー、圧力センサー」からの出力信号を、掘削管理システムで取り込みます。各センサーからの信号は、表示画面に、「時間、排泥量、送泥量、単位推進距離、掘削土量(土量率%)、切羽水圧、中押推力、元押推力」の8項目で、表示・記録されます。
 記録されたデータはRS232Cケーブルを接続することで、パソコンに容易に転送することができます。本施工では取り込んだデータを毎日、本社技術部にメールで送り、分析結果・アドバイス・注意点をまた現場に返すという体制が取られました。

 切羽水圧・中押推進力・元押推進力を計測することで(図2、写真−11)、推進区間別の推進力が検出でき、自動滑材充填装置での的確な滑材注入により、推進力を低減することができました。 写真−11

図−2 掘削管理システムによる「切羽圧力、中押推進力、元押推進力」計測図

図−2 掘削管理システムによる「切羽圧力、中押推進力、元押推進力」計測図

4 .まとめ

海の中道工事は、先月無事に到達いたしました。
 本工事はアルティミット工法を構築するシステムの大部分を取り入れたため、現場担当者のシステムに対する理解が必須となりました。 今回は計画時から本社技術部を中心に事前検討会を数回実施し担当者の理解を深め、かつ掘削管理システムにより生データを基にした、本社と現場との情報交換が日々行なわれ、安全に正確で効率の良い推進が施工されました。アルティミット工法には、今回紹介させていただいた以外にも

  • 電磁誘導チェック測量装置(モールキャッチャー)
  • 急曲線推進用特殊継手
  • 多段方向制御方式
  • ステーションシステム

等のシステムがあります。全て導入することがベストというわけではなく、施工条件に合わせてシステムを選択し、最適な組み合わせで施工することができます。
 今回のシステム導入・データ収集や取材にあたり、現場関係者にご協力いただいた事をお礼申し上げます