No.197 「ステーション工法の開発」−その2−
 「第9回非開削技術研究発表会」の報告について

開発部 伊藤 彰

 4.社会的費用
管路敷設工事のほとんどは、道路を使用して行われるが、その結果、工事により交通渋滞や騒音、振動公害、舗装の品質低下などが起こり、近隣環境や物流、個人生活等に多大な影響を与えてしまう。その際に生じる費用を社会的費用と呼んでいる。これまで管路敷設工事などの工法選定において、社会的費用が十分に理解されて、有効に活用されていたとはいえないのが現状である。

4−1.管路敷設工事の社会的費用
 管路敷設工事は開削工法と非開削工法に大別して行われているが、工法の選定を行う場合、定量的には各工法の工事費による比較がなされているだけで、その結果、土被りの浅いところは開削工法、深いところは非開削工法が採用されている。
 しかし、土被りが浅くても交通量の多い道路での工事の場合、開削工法は車線規制等による交通渋滞や、工事による騒音、振動公害を発生させ、大きな社会的費用の負担を発生させている。
 対して非開削工法は、車線規制が発進、到達基地の一区間で、それにより発生する交通渋滞を、開削工法の場合と比較して大幅に減少することが可能である。また、騒音などによる近隣環境への影響も発進、到達基地近辺で発生するだけなので、社会的費用が少ないといえる。
 また、ステーション工法では、道路上を使用することがほとんど無く、交通渋滞を発生せずに工事を行い、騒音等も防止することが可能で、通常の非開削工法よりも、さらに社会的費用を少なくすることができる。
 このように、管路敷設工事の工法選択時に社会的費用を算出して工事費に加算し、社会全体がその工事に対して支払う総費用を比較、検討することが重要だと思われる。

4−2.各工法の比較
今回、開削工法、推進工法、そしてステーション工法+推進工法(以下、ステーション推進工法)の、費用の比較を行うこととした。比較をするに当たり、統一した施工条件を仮定し、工事費と社会的費用を算出し、総費用を求めた。比較を行うに当たり、次に設定した項目を示す。

  • ○施工条件
  • 敷設管内径・・・・・・φ1,200(mm)
  • 施工距離 ・・・・・・700(m)
  • 土質条件 ・・・・・・砂質土
  • 作業区分 ・・・・・・昼間施工
  • 土 被 り・・・・・・3.5(m)
  • a.開削工法
  • 700(m)の現場を7工区に分けて施工
  • b.推進工法
  • アルティミット泥水工法
  • c.ステーション推進工法
  • ●鋼製ボックスカルバート
  • □7.6×3(m)
  • L=9(m)刃口推進
  • ●アルティミット泥水工法
  • ○現場環境
  • ●影響を受ける1日当たりの平均通行車両数・・・・・10,000(台)
  • ●施工区間昼間居住者数・・・・・500人
  • ●4車線道路の片側2車線を使用
  • ●施工開始、終了地点近辺に公園、空地有り
  • ●通行車両は迂回路等を使用しない
  • なお、社会的費用を算定するにあたり右記の2項目を取り上げた。
項目 内容
1.交通障害 ●交通規制に伴う速度低下による時間損失
●渋滞等による燃料損失
2.近隣環境への影響 ●騒音による損失
●泥土、挨の除去

また、各項目の算出方法を次に示す。

 1.交通障害
●時間損失
各工法毎に車線規制により生じる速度低下を調査し、自動車が一定区間を通過する時間の差を求め損失時間とし、平均時間単価(参考文献2)を乗じた。
●燃料損失
一定区間を走行するための燃料費を求め、各工法毎の区間通過時間の比率に乗じた。 
 2.近隣への影響

●騒音
施工前の交通等による騒音値と各工法で生じる工事騒音値を複合し、複合騒音値か ら施工前環境騒音値を減じ、単価(参考文献3)を乗じた。
●泥土、挨
各工法により生じる、泥土や挨の量を概算で表し、それを掃除するために必要な時間と単価(平均国民所得より)を乗じた。

4−3.比較結果
 今回の設定条件下での各工法の工事費と、社会的費用との算出結果を表−1及び図−6に示す。
 その結果として、以下の事がわかった。

1. 工事費は、ステーション推進工法、開削工法、推進工法の順で高いが、社会的費用を加えた総費用では、開削工法がステーション推進工法より高くなる。
2. 各工法の社会的費用の工事費に村する割合は、ステーション推進工法が0.2%、推進工法が18%なのに対し、開削工法は30%に達する。
3. 開削工法、推進工法ともに、交通障害が社会的費用の中で占める割合が極めて大きいが、ステーション推進工法は交通障害の損失が無い。

工法名 開削工法 推進工法 ステーション推進工法
施工日数 210日 260日 300日
工事費 255,000 233,500 311,500
社会的費用 75,000 40,500 500
1.交通障害 70,000 40,000 0
2.近隣環境への影響 5,000 500 500
総費用 330,000 274,000 312,000
表−1 工事費比較表  単位/千円

各工法の総費用
図−6 各工法の総費用

4-4.考察

1. 非開削工法は、開削工法と比較して社会的費用が少ない。今回、比較項目に挙げていない掘削残土の運搬による公害や、残土処分地の確保による環境への影響も考慮すると、より少なくなるといえる。
2. ステーション推進工法は他の2工法よりも、社会的費用が非常に少ない。今回、比較項目に挙げていない既設埋設配管の移設等を含めて考えると、施工前の事前調査や調整日数も少なくすみ、施工日数の差もなくなり、相対的にステーション推進工法の総費用が小さくなる。都市部など交通量の多い地区や、住宅地など生活、環境を保全すべき地区での施工では、より有効な工法であるといえる。

4−5.今後の課題
 社会的費用は、誰が負担しているかわからない、目に見えにくい費用といえる。工事による恩恵を受ける人がその費用を負担するのは当然だが、恩恵を受けない人も負担しているのが問題である。恩恵を受けない人がその工事に対し支払う費用を無くし、恩恵を受ける人が平等にその費用を負担する為に、社会的費用を算出する必要がある。
 社会的費用を総費用へ導入するに当たり、その厳密な評価、算定は容易ではない。費用の算出方法や交通障害、環境変化の予測の方法など、確立されたものが存在せず、ある程度の仮定の導入が必要で、しかもその仮定は社会的費用の算定に大きな影響を及ぼすからである。
 また、社会的費用を算出するためには、充分な現場環境調査が必要で、それにかかる費用も考慮に入れなければならないが、正確な情報を得て、環境保全をするためには必要だといえる。
 しかし、「4−3.比較結果」で示したように、今回の設定条件下では、非開削工法の総費用が、開削工法の総費用を下回ると確認できた。今後、公共施設の構築費用の負担を平等にするために、早期の価格査定基準の確立が必要であると思われる。

 5.おわりに

今回発表したステーション工法は、ピット工法という名称で1974年1月に工法特許として登録され、技術的には確立されている。ステーション工法は、社会的費用がほとんど発生しない工法として、道路交通量の多い都市部や、生活環境を守るべき住宅地域の工事に対して、大きな効果を発揮する工法であるといえる。
 ステーション工法が、今後の日本の都市管路敷設工事の重要な選択肢の一つとなるよう、さらなる工法の改良、改善を図っていく所存である。
 最後に、この論文の執筆に当たり、御指導をいただいた皆様に、深く感謝申し上げます。

<参考文献>
1. Ranier Kolator:管路建設における社会的費用の構成要素に含まれる価格選定法の準備
NO−DIG98 8−11JUNE
2. 石崎 他:工事中の道路の交通制限による車両の遅れ時間と経済損失についての検証
土木学会第50回年次学術講演会    講演概要集(W−19)
3. 横山 他:SP調査手法を用いた道路交通騒音の社会的費用に関する研究
土木学会第53回年次学術講演会    講演概要集(W−264)
4. 道路周辺の交通騒音状況 9
沿道交通騒音状況研究会監修
5. 道路環境影響評価要覧
建設省道路局企画課道路環境対策室監修